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仙台地方裁判所 平成2年(ワ)873号 判決

原告 鈴木たりよ

同 篠澤悦子

同 鈴木忠

同 鈴木忠夫

同 遠藤弘子

右五名訴訟代理人弁護士 斉藤基夫

被告 鈴木常二

右訴訟代理人弁護士 花渕信次

主文

一  別紙目録記載の財産が亡鈴木常之助の遺産であることを確認する。

二  原告鈴木たりよ及び同鈴木忠夫のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告ら

原告らは、当初主文第一項と同旨の請求(以下「旧請求」ともいう。)を申し立てていたが、その後、請求を変更し、右請求を予備的請求とし、新たに主位的請求として、別紙目録記載の財産(以下「本件財産」ともいう。)のうち、出資持分一万二〇〇〇口(出資金額一二〇万円)が原告鈴木たりよ、出資持分一万四〇〇〇口(出資金額一四〇万円)が同鈴木忠夫の各所有であり、出資持分四万五〇〇〇口(出資金額四五〇万円)が亡鈴木常之助の遺産であることの確認請求(以下「新請求」ともいう。)を追加して、申し立てた。

二  被告

被告は、原告らの旧請求について、請求棄却を申し立てていたが、原告らの請求の変更に対して、請求の基礎に変更があるので、請求の変更に異議があり、かつ、旧請求を予備的請求に変更するについて不同意であるとの申立てを付したうえ、新請求についても請求棄却を申し立てた。

第二当事者の主張

一  請求原因

原告らは、当初次の1ないし3、4(一)、5の事実を主張して旧請求をしていたが、その後、4(二)の事実を主張したうえ、新請求を追加し、旧請求を予備的請求にし、新請求を主位的請求としたものである。

1  鈴木常之助は、昭和四三年五月一三日死亡した。

2  原告鈴木たりよは常之助の妻であり(相続分は三分の一)、原告篠澤悦子(長女)、同鈴木忠(長男)、同鈴木忠夫(三男)、同遠藤弘子(二女)及び被告(二男)の五名は常之助の子である(相続分は各一五分の二)。

3  常之助は、昭和二五年八月三一日第三者とともに訴外加美貨物自動車運送有限会社(以下「加美貨物有限会社」という。)を設立し、昭和三五年ころまでに第三者の出資持分を譲り受け、同社の出資持分の全部を所有するようになった。

4(一)  加美貨物有限会社は、昭和四二年二月までに計一〇回の資本増加をして資本の総額を八五〇万円(出資口数八万五〇〇〇口)とし、常之助がその増加部分をすべて出資した。

(二)  請求変更申立てに伴う主張追加

常之助は、昭和四二年二月一〇日ころまでに、その所有にかかる出資持分について、原告たりよに対し一万二〇〇〇口、同忠夫に対し一万四〇〇〇口、被告に対し同じく一万四〇〇〇口を贈与した。

5  被告は、加美貨物有限会社の出資持分全部を譲り受けたとして、それが被告の単独の所有であると主張している。

二  請求原因に対する認否

被告は、当初、請求原因1ないし3、4(一)、5の事実をすべて認めると答弁していたが、その後原告らがした請求変更に伴い、追加主張した請求原因4(二)の事実に対しては否認する、と述べた。

三  抗弁

常之助は、昭和四二年春四月下旬頃、被告に対し、本件財産を贈与した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因について

請求原因1ないし3、4(一)、5の事実は、当事者間に争いがない。

請求原因4(二)の原告らの主張については、確かに、〈書証番号略〉、被告本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四二年二月一〇日付けの社員総会議事録には、加美貨物有限会社が出資金を増額して、常之助が四万五〇〇〇口、原告たりよが一万二〇〇〇口、原告忠夫及び被告がいずれも一万四〇〇〇口とする旨の記載があり、常之助は、その頃、出資金を八五〇万円に増額したことについて、原告忠夫に対し通知したことが認められるが、右の通知も、これをよく見ると、出資金を増額した旨の記載があるものの、各社員の出資持分の記載はなく、決定的な証拠とは到底いい難く、その他、原告らの右のような主張が本件訴訟で主張された経緯、特に、原告らは、それまでは一貫して加美貨物有限会社は常之助の実質一人会社であるとの主張をしており、なんら常之助からの贈与に触れることがなかったこと(原告たりよもその本人尋問の結果において右主張と同様な供述をしている。)などを考えると、右の社員総会議事録の記載は、単なる形式的なもので、真実の権利関係を示すものではないと認められる。したがって、請求原因4(二)の事実は、認めることができない。

二  抗弁について

1  右の当事者間に争いがない事実、〈書証番号略〉(商業登記簿謄本)、〈書証番号略〉(閉鎖商業登記簿謄本)、原告たりよ及び被告の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

常之助は、昭和二五年八月加美貨物有限会社を設立し、その本店を宮城県加美郡中新田町に置き、自ら代表取締役に就任した。昭和三四年頃、中新田町での仕事が減ってきたため、仙台市内にも事務所を構え、仙台に進出することになり、まず常之助の三男である原告忠夫(以下「原告忠夫」という。)が仙台の事務所に住み込んで運転手助手などをして加美貨物有限会社の業務の執行を助け、その半年ないし一年後に、二男である被告が仙台に出て来て、原告忠夫とともに同社の業務に関与するようになった。常之助自身は、仙台には転居せず、中新田町の自宅から仙台市の事務所に通っていた。

加美貨物有限会社は、昭和三七年頃、株式会社仙台トラックターミナルの株主となり、同社が営業するトラックターミナル内の倉庫、荷扱いホーム、駐車場などの諸設備を利用することが可能となり、これを営業活動の拠点とするとともに、これによって仙台市における運送業の営業許可も取得し、その後の発展の基盤を固めることができた。

常之助の長男である原告忠は加美貨物有限会社の取締役、原告たりよは加美貨物有限会社の監査役であったが、いずれも同社の業務に対する関与の程度は低く、常之助以外で加美貨物有限会社の業務を実質的に執行していたのは、被告及び原告忠夫の二人であった。常之助は、膝に持病があり、また、血圧が高くて病院に通うようになったため、昭和四一年ころから仙台市の事務所には顔を出さないようになり、それと前後して、日常の業務は主に被告が事実上掌理していた。

2  〈書証番号略〉、並びに被告本人尋問の結果によれば、常之助は、少なくとも昭和四二年二月頃までは加美貨物有限会社の代表者兼経営者として、意のままに、定款を変更し、社員総会議事録を作成するなど、業務の基本的な部分に関し、被告、原告忠夫などに対し支配者的な立場にあったことが認められ、原告たりよの本人尋問の結果によれば、常之助は出先の旅館で突然死亡したもので、当時まだ六五歳であり自己の死を予期してはいなかったうえ、経営者の交替も考えていなかったことが認められ、そして、〈書証番号略〉によれば、常之助は、現に、その死亡まで加美貨物有限会社の代表取締役であったことが認められる。

3  以上1、2の事実からすると、被告本人尋問の結果のうち、常之助が昭和四二年四月頃口頭で加美貨物有限会社の出資持分全部を被告に贈与したとの部分は、到底信用することはできない。

確かに、被告本人尋問の結果及び〈書証番号略〉によれば、常之助は、生前、長男である原告忠には必ずしも信頼を寄せず、二男である被告を「専務」と呼称し、会社の内外に対し後継者として扱っていた面もあったことが認められる。しかしながら、他方、原告たりよの本人尋問の結果によれば、加美貨物有限会社には、三男である原告忠夫も取締役としてその業務に深く参画し、被告のみを後継者とする状況にはなかったことが認められ、この事実に照らせば、常之助がその生前に会社の出資持分の全部を被告に贈与したものと推認することはできない。

三  原告らは請求の変更を申し立て、被告はこれに対し異議を申し立てているので、右の点について判断する。

1  原告らが申し立てている請求の変更は、従前の請求、すなわち、加美貨物有限会社の出資持分八万五〇〇〇口の全部が常之助の遺産に属することの確認を求める旧請求を予備的請求とし、主位的請求として、同じく加美貨物有限会社の出資持分のうち、四万五〇〇〇口が常之助の遺産に属すること、一万二〇〇〇口について原告たりよが所有すること、一万四〇〇〇口について原告忠夫が持分を所有することについて、確認を求める新請求を追加する、というものであり、四万五〇〇〇口が常之助の遺産に属することの確認を求める部分は、新旧の請求においてなんら異なるところはないから、原告らの請求の変更は、その余の四万口について存するものということができる。

2  記録によれば、原告らは、既に旧請求について本案判決をするに必要な審理が尽くされ、終結予定の口頭弁論期日において、右の請求変更の申立てをしたものであって、その申立ての理由となる主張は、原告らの提訴以来の主張(加美貨物有限会社の出資持分はその全部につき終始常之助の所有であったとの主張)の根幹を変更するものである。したがって、原告らの請求の変更は、見方によれば、請求の基礎に変更の疑いがあるといわざるを得ない。

しかしながら、本件のような確認請求と確認請求との間の請求の変更の拒否の判断に当たっては、既判力の範囲の観点からこれを判断すべきであり、旧請求についての既判力によって、新請求に基づき別訴を提起することができなくなるような場合には、新請求への請求の変更は、よほど特別の事情がない限り、許容すべきものと解するのが相当であり、本件において、原告らの新請求を審判の対象として許容しないで、旧請求に基づいて判決すると、その判決の既判力によって、原告たりよ及び原告忠夫は、本件財産について有していると主張する固有の権利に基づいて別訴を提起することはできなくなり、結果的にその権利を実体的に喪失することとなり、しかも、原告らの右の請求の変更の申立てが時機に遅れたものであることは否めないものの、これを許容し得ないとするほどの特別の事情もないから、原告らの右の請求の変更の申立てについては、請求の基礎に変更はなく、許容されるものというべきである。

3  もっとも、旧請求を予備的請求にすることについては、訴えの取下げに準じて、被告の同意が必要であるというべきであるところ、被告は、これに対し不同意であるというのであるから、原告らの旧請求を予備的変更に変更する旨の申立ては許されず、その効力はないものというべきである。

したがって、結局のところ、当裁判所は、請求に変更にあった出資持分四万口については、原告の旧請求及び新請求の双方について、判決すべきことになる。

四  そうすると、第一項及び第二項の認定判示によれば、原告らの請求は、四万口が常之助の遺産であることの確認を求める部分(旧請求の一部)及び四万五〇〇〇口が常之助の遺産であることの確認を求める部分(請求に変更のない部分)について、理由があるから、これを認容し、原告たりよ及び原告忠夫のその余の部分(新請求)は理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塚原朋一)

別紙 目録

加美貨物自動車運送有限会社(本店 宮城県加美郡中新田町字大門三番五七番地)の出資持分 八万五〇〇〇口(金八五〇万円)

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